解凍ファイル
なかやまそう

建設途中の高層
マンションを
逆光のなか
ぼんやりと眺め
点在する雲に
かかる夕日が
とてもきれいだったので
携帯で写真を撮ろうと
とりだすけれど
小さい画面に映る
オレンジ色は
あまりにも
ぼやけていて
保存することは
できなかったから

会社に戻って
マシンガンのように
かかってくる
電話や僕を媒介して
もとめられる
会社の数字を
もっともな顔をして
しゃべらないと
いけないのだけれど

学校帰りの
黄色いコドモや
買いものぶくろで
いっぱいの自転車に
乗る赤い主婦や
駅に向かうスーツ姿の
グレーの社会人に
僕の立ち居地が
可笑しくて
笑われてしまったり
したけれど
ただぼんやりと
路地のまんなか
あたりにたって
夕やけを眺めたいだけ
眺めていた

石ころみたいに
ボロボロと
落ちる朝のヒカリは
地下にいる僕に
階段を昇る楽しみを
差し出してくれるので
長方形の出口にある
青を目指して
アルコールが抜けない
肉体をはこび
地上にたつと
そこは月島だった

月末は色々な
電話がかかってきて
すべて着信を
拒否したいけれど
はい。なかやまです。と
出る受話器から
流れてくる声を
頭に反芻させて
理解しようと
思うのだけれど
あまりにもすべてが
ぼやけていて
会社を抜け出すエレベータに
乗って夕方の商店街を
銀行に向かって
あるきだす

いつもは右に
曲がる道を左に曲がり
おじいさんたちが
ギフトを交換しあって
いるので僕も
会社の通帳を差し出して
変わりに甘い和菓子を
いただき縁側で
お茶をすすり結構な
お味でとささやき出た
路地裏で

自販機から
とめどなくカラカラと
清涼飲料水が
溢れだし
マクドナルドから
ビックマック
みたいなものが膨張して
はみだしてきたので


チキンナゲットは
結構ですと


建設途中の高層
マンションを
逆光のなか
ぼんやりと眺め
点在する雲に
かかる夕日が
とてもきれいだったので
携帯で写真を撮ろうと
とりだすけれど




すべてが
ぼやけていて









今日ぼくは

結局
なにも

保存しなかった


自由詩 解凍ファイル Copyright なかやまそう 2005-10-02 14:15:57
notebook Home 戻る