河童の屁—4(変身願望)
がんさん

アストリンゼン・・・肌を引き締めるための、酸性の化粧水。



きょうの「お題」は手強いな。

アストリンゼンで思い浮かべる言葉は、

明色アストリンゼンしかない。

そう聞いて、「フムフム」頷くのは、僕と同じ世代だな、きっと。

明色アストリンゼン・・・

「乙女の祈り」って曲をはじめて知ったあのCM。

確かに、乙女の祈りには、違いない。

なんせ、明色アストリンゼンだもんね。



そういえばあの頃、

ロゼット洗顔パスタなんてぇのもあったな。

こちらのCMは、アニメ風仕立てで、

「白子」さんと「黒子」さんが、コミカルな絡みをみせていた。

内容はすっかり忘れてしまったが、

黒子さんが、

「まぁ、なんてあなたのお肌は、綺麗なの!」って言うと、

白子さんが、

「それは、ロゼット洗顔パスタを使っているからよ。」

なんて、得意そうに答える。

だいたい、そんなシナリオだったろう。

ところが、どうしたわけか、CMの狙いとは裏腹に、

僕は、この黒子さんに、えらく魅力を感じてしまった。

で、毎回毎回ブラウン管の中で、

白子さんを羨んでいる彼女の気持ちが分からなくって、

終いに、「化粧って奴は、きっと目に見えないところで、

僕ら純朴な少年には計り知れない

おどろおどろしいスペシウム光線を発している。」

そう、思うようになった。

それは、とっても、とっても・・・

○○な(適切な文字を入れよ)スペシウム光線。

って、あの頃のほとんどの「僕ら」は、

そう勘ぐっていたに違いない、絶対にね。

そんなトラウマがあるものだから、

年頃になっても、化粧品と名のつくものには、

余り近づかないようにしてきた。

姉や妹の洗顔すべすべや、パックにょろにょろや、

ヘアーしゅぱしゅぱで、洗面台が花盛りになったときも、

ひたすらスペシウム光線を浴びないように

生き延びてきたんだ。

ところが、ところがだ、いまや、男の化粧も当たり前。

今度は、年頃になった息子たちの

ヘアーリキッドだの、チックだの、どろ洗顔だの、

オーデコロンだの・・・再び、洗面台が花盛り。

おとっつぁんはもう、

スペシウム光線をかわすだけの余力がないのだよ。



化粧とは、きっと変身願望の一つなんだ。

社会が、男の論理でがんじがらめになっていた時代、

男は、変身する必要もなかった。

父さんは、母さんでなくてよかったし、

あんみつ姫は、リボンの騎士でなくてよかったし、

「秘密の花園」は、その扉を開けなくてよかった。

ところが、いまやすべてが変身を夢見る時代。

それはきっと、喜ぶべき傾向なんだ。

たとえ、父さんが、ヘロへロになったとしてもね。

どんなイディアでも、

一人一人の変身する想いがなくちゃぁ生み出せないんだもの。

また、変身のないような人生なんて、

クリープを入れないコーヒーみたいなもんだ。

(たとえが、古いっつーの。)



ただ、ここで一つ注意を喚起しておきたい。

ほら、ウルトラマンだって、仮面ライダーだって、

変身するときが一番危ない。

いつも、ショッカーは狙ってるしね。

20世紀最悪のショッカー、ヒットラーもそうだったろう。

最初は、貧しいものの味方、

病める社会の救世主として登場したんだ。

堕天使ルシファーじゃないけれど、

悪魔は、優しい顔でやって来るってね。

そういう意味じゃ、

奴は最も手だれた「化粧上手」ってことかな。

翻って今の日本の情況を考えると、

「化粧上手」をうみだしかねない環境だってぇこと。

奴はもう、舌なめずりして

襲い掛かる時期を伺っているか知れない。

化粧が、「騙し」になる前に、気付かないとね。



まっ、健全な化粧を楽しみながら、

ショッカー対策も、おさおさ怠りなきように。

蛇足ながら、・・・

こんなおっさんも、変身願望はある。

薄くなった髪を茶髪に染めて、

耳や鼻に、ピアスをシャラシャラつけて、

眉毛をそって、無駄毛を脱毛して、

原宿界隈を闊歩したいと思うのだ。


散文(批評随筆小説等) 河童の屁—4(変身願望) Copyright がんさん 2005-10-02 07:41:35
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