おじいちゃんと劉備
ブルース瀬戸内

中国に住む僕のおじいちゃんは

ボロボロだけどしっかりとした舟を漕いで

川を下るのが仕事です。


さすがに漕ぐのがすごく上手で

コースどりも強かで

僕も一度乗せてもらった時は

見るものすべてが神々しくなって

おじいちゃんの、

言葉の意味が分からないけど

とても美しいメロディの歌で

気分がよくなり過ぎて眠ってしまったほどです。


おじいちゃんの日給は

日本円で

僕の大好きなリンゴジュース2本分ほどだけど

おじいちゃんは舟が漕げれば何もいらないし

お前が元気なのが一番幸せだと僕に言って

たくましく日焼けした手で頭をくしゃくしゃに撫でてくれます。


ある日おじいちゃんがいつものように仕事をしていると

お客さんが実は盗賊で、陸に上がる間際に

その日の売上金を全部かすめて、舟を蹴って逃げようとすると

舟を蹴ったことにおじいちゃんは激怒して

あっと言う間に盗賊を倒してしまいました。

当時、81歳だったのに

本当にあっという間だったそうです。


おじいちゃんは自分のことを

劉備の子孫だとよくウソをつくけど

たまに本当かもしれないと思ったりします。


そんなおじいちゃんが

おととい大往生して

僕は家族と親戚に連れられて葬式に行きました。

おじいちゃんは火葬されて、

僕たちは灰を川に流しました。

灰は、いつもおじいちゃんが辿ったコースを流れていきました。

父さんが、おじいちゃんがよく歌っていた歌を歌いました。

その歌は、昔、劉備が歌っていたそうです。

僕は今、その歌を覚えているところです。


自由詩 おじいちゃんと劉備 Copyright ブルース瀬戸内 2005-09-27 07:24:19
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