駅
プラットホームの端っこで
小さく手を振る人がいる
今
動き出す列車の背中には
きっと誰かの
そう
見送る視線のその先には
きっとそんな
夏の終わりが小さく笑っている
*
電車は走り出していた。当たり前のように、急行列車がいくつもの駅を通過していく。
僕は吊り革につかまって、さっきみた景色を思い出そうとした。何回も。けれど、その度ごとに、プラットホームは小さな台地になり、振られていた手は打ち寄せる波になって、その音だけが、どこまでも広がっていくのだった。
聞いたことのある誰かの苗字と、同じ名前の駅名がアナウンスされる。そして電車は通過する。鉄橋を超えて、海が見えた。その時、僕はすでに席に着いていた。
僕の背中側、僕には見えない窓のむこうで、夏はもう、手のひらみたいな終着駅に、届きそうだった。
*
今ここで書き留めた
言葉の一滴がもしも
どこかへ運ばれてゆくのなら
それが次の季節であることを
祈る右手ににぎられた
使い古しのボールペン
左から流れる横書きの文字が
いつしか秋の匂いに包まれて
気の早い言葉がもう
音もなく散り始める
それが時の流れだというように
駅の発車ベルが騒いでいるけど
*
誰かが単語帳を落とす。そしてそれを、誰かが拾う。一つの手から一つの手へ。渡された小さな紙の上の、筆跡は少しだけ見えて、綴じられた。
僕は目を伏せる。そして目を上げると、また、海で。 波のむこうで、カモメが散っていった。真っ白なままの日記みたいだった。
僕は自分の、十七歳の手のひらを見つめ直した。それは、電車の振動に合わせて小さく震えていた。乗り換える駅の名前も忘れたまま、また新しい発車ベルが、汽笛みたいに聞こえてきている。
一節・三節はぼくが書いていて、二節・三節はあをの過程さんが書いてくれています。こういうコラボレートも楽しいですね