白い陽
岡部淳太郎

またひとつ、罪を重ねました。白い陽があまりにも眩しすぎて、思わず青いほうへ、赤いほうへ、よろけてしまったのです。それはきっと、私の弱さのひとつでもあるのでしょうが、こんなにさまざまな色につまずいてしまうなんて、死んでしまった妹に顔向けできません。私は白、のはずだったのに、私は汚れたさまざまな色。それが私の、生の色でもあるのでしょう。

この生のはじめの時に、すべては真っ白で、すべてはそのはじめての色のために、整理されていました。妹は、白のために生きた人でした。白を信じて、白い虹を目指して、それが叶わぬままに、白い無名の世界に沈んでしまいました。いま私は漂白された廃墟の上に立っています。立ち止まって、白い横断歩道の眩しさに、眼を細めています。白のまま生きるのは、きっと不可能なことなのでしょう。

日々はいまも、何色でもない時を刻んでいます。私の血の赤さも、私の精液の白さも、そのままの色ではなくて、何だか薄汚れています。錆、または白い斑点が浮き出た生活、その中で、同じように白から離れた人びとと会食します。日々の務め、その中で、白い波に洗われて、砂浜は削り取られていきます。死んでしまった妹は、その死の間際に、白い陽を見たのでしょうか。

またひとつ、罰を受けました。私が白であるための、私が白でないための、当然の報いなのでしょう。頭上に浮かぶ白い雲のように高く昇れないのなら、白いままではいられない時の、その代償として、ただ生きるしかないのでしょう。妹はいま、白く輝く海を望む、白い墓地の中で眠っています。私の眠りはいまも昏いままなのですが、白い陽を浴びて、起き上がる日が、いつか来るのでしょうか。



(二〇〇五年八月)


自由詩 白い陽 Copyright 岡部淳太郎 2005-09-18 23:01:19
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
散文詩