女と詩
むらさき

つまり詩というものが
人類を語るためのものならば

骨髄の中に
血液の中に
どさくさに紛れて
流れているお猿さんを
見つけるためのものならば

女は詩を作り得ない

女は女であるから
人類にはなりえない

詩人が目指す
あちらの方を見れば

懐かしい原始の森の中で
キリストや仏陀や
ゼウスやアッラーなんかが

アリストテレスや
ピタゴラスや
ソクラテスや
ガリレオなんかが

切り株を囲んで
談話中だ

しかし
女の前に
そびえ立つのは
無数の月日が築き上げた
氷の山 
壁のような


その冷たい透明な
塊の中で

子宮が
お母さんが
バービーが

それからそれから
二桁の出席番号や
ハイヒールや
口紅や結婚指輪や
産婦人科医なんかが

頂上あたりには
寝たきりの老人や
旦那の死後から
自分が死ぬまでの
空白の数年間などが

平和に保存されている

登ろうとすると
つるつるすべって登れないのだ

根性を入れて
思い切り助走してみる

あの森に行きたいがために
氷の山に飛びついたら

失敗して転んで
お尻に青あざがついて

「女の尻は美しくなければ
 だめだ」

なんて言葉が
丁寧に投げかけられる

女は詩を書くとき
「ぼく」という主語を使うことに
よって
人類を装うことは出来るが

文字を打つたびに
暴れまわる
マネキュアの指は
それを許さない



自由詩 女と詩 Copyright むらさき 2005-09-13 00:02:45
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