*夏だった*
かおる



出涸らしのような夏が
のっぺりと緑に張り付いている

季節も針を進めるのを忘れたようで

時がとわに 流れていく

生まれ落ちた時代の旅人

その想いは 積っていく

しんしんと

真綿のように くるんとくるまれて
疲弊していく 日常にすり潰されて
渺々と吹き荒れる砂塵のような想い

時の波に攫われていく

秋にうまれた旅人も
冬にうまれた旅人も
春にうまれた旅人も
夏にうまれた旅人も

気がつけば夏だった

どの夏の記憶もよく似ているのです

幸せな夢を見続けて・・・
宵闇を切り裂き 弾け散る 花火のようで
夢から覚めるとジュワッと音をたてて消失するのでしょうか

花も散らねば たわわな実りもなく

サンサンとした夏色を消し去るように雨が降る

水の記憶が命の根幹を揺する

それでも夏は短い季節で
陽炎のような茫漠とした
欠けている消失感を
埋め戻したい一つの衝動で

夏の情景をこんなに切なく感じるのはなぜ

ヒグラシが盛りの終わりを告げているからでしょうか

まだ こんなに暑いのに まだ燃焼中だというのに

人の世に生きるには一人では寂しすぎるのでしょうか

この鮮烈な空や山や海も いつの間にか 艶やかさに染まりはじめ 
血のような夕日の紅が静かに 静かに広がっていきました 


自由詩 *夏だった* Copyright かおる 2005-09-10 21:47:27
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