幸福な妄想
初代ドリンク嬢
写真の中には
シマウマがいた
写真をとったら
あの人はシマウマになった
シマウマの飼い方を私は知らない
せめて
ロバとかポニーだったらいいのに
町並みにもなじむかもしれない
シマウマは
とってもかっこいいけど
この湿った街にはポップすぎる
私はシマウマの写真をとってしまった
お誕生ケーキを前に
うれしそうなシマウマ
シマウマの表情は分からないから
正確には潤んだ目で
こっちを見てるシマウマなんだけど
どうしようかな
でかいしな
でも
このシマウマはあの人なんだから
・・・・あの人なのかな
面影は残ってない
質問もできない
答えられるかも
「私のこと分かる?」
返事もせずに
ケーキを見てる
ケーキの上によだれが・・・
いいよ
あなたのお誕生日だったんだもの
こんなに上手に焼けたのに
おいしいって言ってね
一応フォークも出してみたけれど
そうね
やっぱりそのまま食べるのね
しかも
私の分まで食べちゃうのね
ふう
どうしよう
放りだすわけにもいかないし
このシマウマの中に
あの人はいるのかしら
それとも
ただのシマウマなのかしら
ただのシマウマじゃないわね
あの人が変身したシマウマね
シマウマをじっと見てみる
シマウマと見つめあう
その目には私が写ってる
こんなにシマウマと見つめあうのは
初めてだわ
あの人はどこ?
こんなに見つめてるんですもの
このシマウマがやっぱりあの人なのよ
だとしたも
結婚はできないわね
一緒に眠ることはできるかしら
私は
とりあえず台所を片付けながら聞いてみた
「ケーキ、おいしかった?」
シマウマは
「フ〜ン」と鼻息を出した
「そう、よかったわ」
案外うまくやっていけるかもしれない
明日
背中に乗せてくれる?
ドライブに行きましょう
もちろん、あなたが車の役ね
ウンチはちゃんとトイレでしてね
パンツをはいたりしたら
余計に目立つから
恥ずかしいだろうけど
そのままで行ってね
道を走っていて
警察にとめられたらどうする?
私の婚約者ですとかいっても誰も信じてくれないわ
シマウマと婚約するバカ女で終わりよ!
私は別にそれでもかまわないけれど
そうなったら
わたしたち離れ離れになるのよ
そうだ!
動物プロダクションに所属してみる?
いいお金が稼げるかもしれないわ
そして、外国へ行って
大きな牧場つきの小さな家に二人で暮らすの
生まれた子どもはきっと
ギリシャ神話に出てくるあれ
なんていったかしら
みたいになるわ
ステキなアイディアじゃない?!
私、頑張るわ
そして、二人で静かに暮らしましょう
私は
最後の水しぶきを拭きながら
振り返った
シマウマが
あの人がいない
一人、いえ一匹で外に出たのかしら
危険だわ
すぐに見つかっちゃう
私たち
離れ離れになっちゃう
探しに行かなくちゃ
でも、
シマウマがあの人だったら
大丈夫
きっと帰ってくるわ
そう
大丈夫よ、きっと
君の目には僕は映らない
本当には写っていないんだよ
僕たちは見つめあってはいないんだ