改定・トリアゾラム0.125mg錠
人間
【一】
春の倍音。
その色素の薄い、一斤染された肌に、低気圧は粘るロを開き、螺子で巻いた舌を這わせる。
常識が全身で身悶える。
振動する音幅の内部には、不幸を装った透明な労働者が充満している。
収縮する体感時間の蠕動が、土くれを連ねながら私の肉に禍々しいセルライトを作る。
倍音がONになると春が禁色に変わり、仇がOFFになって常識が裏返る、
分化していくどんどん。
この、悪性腫瘍を身ごもった背中の上ではヨロズの神が丸くなっている。
この、未成熟の扁頭体から半分凍ったままの記憶がずるずると落ちる。
電信柱の陰から逃げる、
イチジク形の象の頭部が、
花屋のカスミソウの根に隠れて、
牛丼特盛ツユダク生卵付を食っている。もしも、
もし言葉にも詰まったら。
こう唱えればいい「イデアのアイデアでボルビアにボルビック撒くゾディアックがオルガノのオルガン叩いて宦官
ガリ版刷りのゲル状のミノトールで以ってザルの目くぐってゾル状のサンサーラへ羅列で業々!」
| 私、には足りない、考、える時間が、まだ。まだ。
【二】
中古TVに刻まれた走査線のような斜線が、街を千切りにする。
その、錆びた雨。
双頭の蛇が美味しい尾を奪い合うと威嚇が陰陽模様の筆になって走り、
クラインの壷を平面図形に展開して四隅をメビウス環で結び、
私は最も古い規格の螺子を形態模写して立ったまま眠る。
(ここで計算してみましょう)
『
風景の吸引力x(性の飢えa+定理の抵抗b)÷万物の逆旅y×百代の過客z=p
(視界の鬱滞性皮膚炎ax+引力と斥力のバランスbx)÷鋳造された水滴の自然落下速度yz=p
曲線の牢獄ax/yz+裂かれた空間から見える結晶bx/yz=p
不確定性独房x(a+b)/yz=p
』
解pを右手に持ち、
空中にだらけている青銅の釣鐘を打ち鳴らす私。
しかし誰一人として三半規管を狂わす事は無い。
私の肩に喰い込む水玉な陰陽模様の蛇の螺子、というか形式の無い鎮墓獣の牙、が痛い。
錆びた雨は止まない。
濡れた意識はより清明になり、認識の卒塔婆が足元から地平線に向かって次々と突き刺さっていく。
翳るに咎無くて湿る螺旋の私が回るハラワタ輝く。
|| メタサディスティックな民主主義的女王様とゴーストノートを毎日交換したい。
【三】
徹底的に整備され尽くした並木道。
国土交通省指定の立ち位置に、ずんぐり伸びた真鍮製真性包茎。
その間を縫って等間隔で植えられたアバタ女郎の、発育の良い枝が、
白日の放つ”やりきれなさ”を隠蔽して、
道をいくらか見栄えの良いものに誤魔化す。
そんなアバタ女郎たちの中でも一番若い娘である吉野染井嬢(仮名)も、
二十歳になる寸手の所で、酔った仇に散らされる事となる。
仇の唯一神で貫かれた処女膜からは知恵遅れの北風も漏れてはいたものの、
台地生まれである吉野染井嬢の倫理には一切の誤字脱語も無かった。
禁色の車道に、
ミズクラゲが干からびている。
コウモリダコが干からびている。
ダイオウタテジマウミウシが干からびている。
瞬間、
著しく退化し、
喃語遊びを始める私。
「あ、
えぅ、
お、
う、
おぁ、
あぇ、
いぉ、
えぅあ、
ぉうあ、
いぅえ、
いぇいぇ」
し、
し、
子音を取り戻した代償として羞恥を喪失する私。
鳩尾に鈍重な幻を食らいゴーストノートを開く。
||| 泥化した、自律神経に、言語の苗木を、植え続けている、最中。
【四】
各種感受器官が減衰しないように目を見張る。
まして空白を敷き詰めた実験室でもあるまいし、
慌しく準備された風景はハリボテの如く時代の上に白旗の群れがはためいている瞳孔を開く。
墓石状の資本論に雪崩れ込む群青色の妻帯者。
雑踏、字の如く、乱雑な舞踏、大雑把な型と申し訳程度な即興の鳴門渦潮。
配達ピザのパンクでサイケでカラフルなバイクは規則によって靖国神社に突っ込む。
中学女生徒は中央市場にて卑語で競売にかけられている。
アンチニヒル加工を施された信号機からは一切血尿が出ない。
新世代の社会人たちは正午以降は感触を否定した幽霊になる。
白日の高架橋下では、チビTシャツを着た女性の輪郭があらゆる実権を握っている。
助六寿司弁当の、潰れた米粒からは既に、明日の太陽の匂いがする。
畢竟、全ては便器に落とされる手配が整っている。
|||| 懐かしくもない思い出に何百枚と捜索願を出す。
【五】
肉片のように動く人影の羅列は、
象牙の箱庭の中でパーツ毎に鋲打ちされ、
禁色の上で仁王立ちする白日の陰険さによって、
ひとつひとつにシリアルナンバーが刻印されていく。
私の感覚はいよいよ般化しつつある。
「甘いの呉れ」→「あまぁいのんくれぇ」→「A mine'on clay」
甘ったるい舌から滑った楽観のアクセントが、粘土になって喉の奥で膨張する。
軽蔑で煮詰められた私の血で、一切の幾何学を排除した呪詛を描く。
立ったままの卒塔婆に寄り掛かる常識が、項垂れて苦笑する。
||||| 明日には全て裏返る、なにもかも放っておいて私はハラワタを鳴らす。