鯉泳ぎ
服部 剛

今日は老人ホームの庭を
婆ちゃん達とさんぽして
草っ原のベンチにみんなで肩を並べ
空泳ぐ鯉のぼりを眺めていた 

「大きいまごいのお父さん」は
しぼんでこんがらがった日干しの姿で
尾っぽを風によれよれなびかせ・・・
つぶれた顔に
すろーもーしょんで
口だけが
「わ」 っとひらいた

「鯉のぼり」を歌っていた
僕等は腹を抱えて笑い
ひとりは杖を倒して 
ベンチから芝生に尻餅をついた 

久しぶりに楽しく過ごせた
連休前の仕事を終えて
月頭で余白の多いタイムカードを差し
ため息を
「ほ」っともらす

門を出ていく僕の
心地良くくたびれた背中を
夕暮れの雲間から
琥珀こはくに輝くまなざしの
淡い光線が照らす

「これでいい」 と呟けば 

あの しおれた体で
口だけを
「わ」 っとひらいた
お父さん鯉の姿が
ゆがんだ脳裏をよれよれ泳ぐ
週末の帰り道


自由詩 鯉泳ぎ Copyright 服部 剛 2003-12-27 22:43:04
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