「 湖面にて。 」
PULL.







盗んだ船で、
沖に出る。

今年の夏は、
もう終わるけれど。
今夜はらりほー。
朝まで無敵!。

右手にアルコール。
左手に紫煙。

頭のてっぺんまで、
気持ち好くって、
おれたち。
めちゃいっちゃってた。

こんな時に、
話すっていったら、
女のこと。

八月、
アトトリが童貞を卒業した。
入り口がわかんなくて、
大変だったんだってさ。

先週、
ブンガクに彼女が出来た。
奥手な奴には、
はじめての彼女。

昨日、
トウフが振られた。
三つ股掛けられてたらしい。

今日、
メタルは学校を辞める。
男のけじめって奴をつけて、
来年パパになるんだ。

こんな風に、
みんな集まって、
馬鹿みたく騒ぐのも、
たぶん今夜が最後。

だから今夜は、
とことんらりほー。
朝まで無敵!。

飲んで喋って、
喋って飲んで、
また飲んで喋る。

いつしか騒ぎ疲れて、
みんな。
湖面に映る、
月と街明かり。
ただ魅入ってた。

 「おれ、
  今夜のこと一生忘れない。」

 「ぶぁーか。
  青春してんじゃねえよ。
  くそ気持ち悪りぃ。」

 「そういうお前だって、
  目が潤んでるじゃん!。」

 「これはゴミが入ったんだよ。
  くそったれのゴミがよ。」

トウフとメタルの漫才も、
これが見納めかもしれない。

ブンガクが言った。

 「最高の夏。
  だったよな。
  おれたちの夏。」

ああ。
おれたちの夏は、
いつだって最高の夏さ!。

 「乾杯しようぜ。」

仕切るのは、
いつもアトトリの奴。

 「乾杯すんには、
  酒が足んねぇから。
  おまえ取ってきてくれよ。」

 「はいはい。
  わかりましたよ。
  三代目さん。」

 「それは言うなって!。
  プレッシャーなんだぜ。
  これでも。」

 「そんなもんなのか?。
  おれには分からないけどさ。
  じゃあ取ってくるよ。」

操縦室のアイスボックスに、
とっておきのバーボンが、
まだ残ってる。

 「悪りいな。」

 「頼んだ!。」

 「愛してるよー。」

 「足滑らせて落ちるなよー。」

 「落ちるのはお前だよ。
  くそ酔っぱらい!。」

背中越しに、
中指を立てると、
笑い声が聞こえた。

初秋の風が、
ひんやり頬を撫でる。

空には雲一つなくて、
まあるい月、
蒼く灯ってる。

いかれた仲間との乾杯には、
もってこいの夜。



  ぱちゃん。



何かが、
湖面を叩くがした。

船から身を乗り出して、
のぞき込むと。
大きな影が、
波紋の中で揺らいでいた。

来る。



  すぅ、
  ぱちゃん。



最後に尾ひれが、
湖面を叩いて消えた。

 「おい見たかよ。
  今の!。
  なんなんだ・・・。」

振り返ると、
誰もいなかった。

思い出した。

あの夜、
みんな消えたんだ。




  すぅ、













自由詩 「 湖面にて。 」 Copyright PULL. 2005-09-02 03:07:54
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