ラピスラズリ
はな
彼女は
朝の遠いこのまちの
ちいさな刷毛で色をさしてゆく、群青
そらをぬりこくって笑う
その背中に
にじんでゆく夕焼け空を想起しました
けれどもうぜんぶ しずんでしまったから
よるのあけてゆくおとは
さかみちを果実のころがりおちるのににていて
とりかえしはつかない、と
はのうらにそっとかたつむりをかくしたよるを
てのひらでくりかえします
ぐんじょう、
あなたはだれなのですか
たんじゅんな日々のきょくせんを
いくどもなぞるゆびが焼ける
あなたがかえってこないまま
くりかえされてゆくゆうやけ
あなたがそっとよりかかって来て
僕はだまって すきまにうまれた心臓をさがした
ゆびが少しだけ震える
いつからか僕たちは
ずっとおなじ電車に乗っているね
揺れのなかでくずれてゆく 、
あなたを抱きしめるのがほんとうは怖かった 群青
だれもいないまちのすみの
あおく
しずむ交差点で
ふたりのかげはぬりつぶされていった
あおく
*
澄んだみずうみの水面に
はくちょうのかたちのひとがおよいでいた
よく化けたね と
僕はわらった
そのひとも わらった
目を眩ませたそのひとは ぶかっこうに両手をひろげ
ひどく小さい
なつかしいなまえの
僕を呼んだ