長い長い講堂の時間
うめバア


はじめは数百人規模の集まりだったと思う
広い講堂の中に集められて
長い話を聞かされた私たちは
みんな、退屈で、飽き飽きしてしまい
好き勝手な話をしていた
いろんな人の噂話とか
週末の予定とか
将来の夢、とか。
別に、本当に何かを考えていたわけじゃなくて
ただ、あふれるほどの時間を無駄遣いするのが
楽しかったから、そうしていた

そのうちに、
1人、また1人と
理由もなく、誰かが呼ばれて
大きな講堂を後にした
呼ばれた人がどこへ行くのか
それは誰も知らなかった
誰もが、どのみち似たような場所へいくだろうと
気軽に想像していた

知らない誰かが呼ばれているうちは気にもとめず
けれど自分もそのうち呼ばれるのだろうと、思った
何のために、誰に呼ばれるのか
そのことを考えてみようとはしなかった

一緒にいたうちの1人が呼ばれ
それからまた、別の1人が呼ばれ
だんだんと、人がまばらになっていくのを感じた
それでもまだ、何が起こっているのか
見極めるのは、後でいいと、たかをくくっていた

よく知っている人達の顔ぶれが全部消えたので
私は、あまり仲良くない人に近づいて
話をせざるをえなくなった。
知らない人の中には嫌な人もいたけど
新しく友達になれそうな人とも会えた
けれど、その人達もまた
しばらくすると、行ってしまった

それでもいつかは順番が来るのだろうと
みんなが出ていった、あの扉を見つめながら
私はそこで待っていた

何百人もの人間がひしめきあい
好き勝手に笑ったり、ふざけていた
あの喧噪は、もはやどこにもなく
今はただ
時折、大きな講堂の屋根のきしむ音が
耳に響いてくるだけ

それでも、私はいつか自分の名前が
呼ばれることを信じるしかなく
もはや、他愛ない話をする相手さえいなくとも
はじめのころと、同じ表情を保つことで
もてあました時間を、なんとかつぶしている

みんな、どこへ行ってしまったんだろう

時間はまっすぐに流れ
もうすぐ、ここが終わりになることを
私もようやく悟りはじめた

なぜ私が呼ばれなかったのか
ようやく私も
考えざるをえなくなった

私は呼ばれたかった
出ていく先が
どこであろうと
他の人と同じように
当然の権利として、ここを出て行きたかった

私には何かが欠落していたのだろうか?
いや、違う
時間はまっすぐに流れ
二度と、戻ることはない

ああ、そうだ

私はただ、単に、定員からはみ出したのだ。
だから、ただ、理由もなく
呼ばれなかったのだ。
そして、これからも
呼ばれることはないのだ。
定員に達した以上、余剰人員は必要ない

ただそれだけの理由で
みんなは私を
置いていってしまったのだ


自由詩 長い長い講堂の時間 Copyright うめバア 2005-08-28 01:24:19
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