オキアミの海
あおば

摂氏マイナス60度で貯蔵される本マグロ
真っ白な凍った頭で吠えている
クジラが食べるオキアミは養殖魚の餌ともなるのだが
こちんこちんに固まった肌色煉瓦の真ん中で
溶かされる日をゆっくりとしっぽ丸めて待っている

南氷洋のオキアミは相模湾に投げ込まれ
泡を食い窒息しそうになりながら
バラバラになって溶けて散っていく
薄い色のエビみたいな姿となって
暗い海底めざし泳いでゆく途中
表層の名も無き魚の群に襲われて
びっくり仰天そのまま気絶するもあり

誰も知らない記憶を探せ海の底
クジラに代わり獲物を屠れ

乗り合いの船頭は元漁師
ばかでかいのはいないかと訊ねたら
お客さん冗談言っては困ります
本マグロは釣れるわけもなく
ソーダ鰹に鯔に鰺
根付きのアイナメ磯臭い

分厚い冷凍庫の扉を開けて
本マグロを海底に泳がせば
真っ白な流線はピンとして
黒々と冴えた色を取り戻し
列をなし威風堂々突き進む
当たり前だが海の中でも
マグロ列車は止まらない





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2001/01/31


自由詩 オキアミの海 Copyright あおば 2005-08-25 00:47:09
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