ひとつ足りない
ベンジャミン
今日が終わる
その少し手前で
ひとつ足りないことに気づく
いつものように
君を送りとどけた駅で
「またね」でもなく
「さよなら」でもなく
「ありがとう」でもない
ひとつ足りない
言葉が言えないことに気づく
それを思うと
いつも悲しくなってしまうのだけど
そうやって
ひとつ足りない
言葉が何なのかを考えているうちに
次の約束の日が来てしまうから
いつまでたっても
やっぱり
ひとつ足りないまま
今日も
君の後姿を見送りながら
ひとつ足りない
その言葉のことを考える
ひとつ足りない
たったひとつなのにと思いながら
ひとつ足りない
それだけのことに
胸がいっぱいになってしまう