子猫のシビット
芳賀梨花子

僕は飲んだくれて
恵比寿の裏通りで、げろはいてた
何もかも上手くいってないのに
何もかも上手くいってるように
取り繕って
でも、今夜は酒を飲みすぎて
げろはいている僕
そんな僕をじっと見つめてる
じっとじっと、逃げもせずに
僕を見つめている子猫
僕は惨めな気分で
そんな目でみるなよっと言った

子猫にはシビットと名前をつけた
コンビニでキャットフードを買ってやった
僕の部屋の隅っこでシビットは眠った
せっかく買ってやったキャットフード食わずに

朝、僕が最悪の気分で目覚めたら
シビットは僕の股間で眠ってた
僕はなんだか嬉しくなって
シビットを起こさないように
そっとベッドから出て
僕は至上最悪の頭痛と闘いながら
Yシャツを着る
朝になったら捨てようと思ってたけど
僕はシビットを起こさなかった

シビットがいつでも出て行けるように
僕は部屋のドアに鍵をかけなかった
鍵をかけたって
シビットは出て行けるんだけど
僕は鍵をかけず
Postに投げ込まれている新聞を
いつものようにバックに押し込んで出かけた
至上最悪の頭痛だったけど

僕は気になっていた
シビットは出て行ってしまっただろうか
電話をしたってシビットは出るはずもなく
僕はなんだか不安すら感じるようになってきた
シビットがまだ家にいるかどうかってことだけが
頭の中を支配していて
上司の言ってることも得意先からの電話も
どうでもいいことに感じて
昼飯さえ喉を通らずじまい
終業ベルが鳴るや否や僕は一目散

シビットはいなかった
部屋の中はいつもの僕の部屋
いるはずないなって思ってたけど
というか、シビットの存在自体が
僕の幻想だったのかもしれないと
酒を飲みすぎた自分が
なんだか情けなくって
僕はベッドに倒れこむ
ふと、鼻を突く昨夜のシビットの残り香
僕は衝動的に跳ね上がりシビットを探しだす
戸棚の中もクローゼットの中にもいない
ソファーの裏にもバスルームにも
でも、二時間後
僕はマンションの下のさえない公園で
シビットを見つけることになる

シビットは僕の胸に抱かれた
子猫のそれは儚げで
僕はいとおしかった
シビット、シビット、僕のシビット
さぁ、一緒に部屋に帰ろう
僕は、それからシビットを大事にした
大事に大事に育てた
シビットはやがて大人の猫になってきて
麝香猫のように
妖しい香を肛門から発して
僕はたまらなくなってシビットを犯す

シビットは僕のそれを受け止めて
毎晩、僕を夢中にさせた
ケイコよりも、ナツミよりも、メグミよりも
僕を夢中にさせた
僕はシビットを犯しつづけたくって
夜だけじゃものたりなくって
会社にも行かなくなった
昼も夜も朝も
シビットの肛門を犯すことだけが
僕の生きがい
僕に犯されれば犯されるほど
シビットの発する臭いは濃くなってきて
僕は僕はそれなしでは生きていけない
シビット、シビット、僕のシビット

シビットも僕もいつも僕の精液にまみれて
たまに風呂に一緒にはいって
二人で綺麗になめあったり
シビットの華奢な身体は
いつのまにか豊満なっていき
僕は排出するばっかりだから
みるみるやせ衰えていき
それでも、やっぱり僕はシビットを犯し続ける
そのたびシビットは女になって
それは、それは美しい女になって
僕は、それに比例して不安になっていって
独占したいがためにシビットを犯す
どこにも行かないでシビット

やがて、哀れな男である僕は捨てられて
廃人となって街を彷徨う
いつもシビットを探して
シビットの匂いがする女を探して
でも、あいかわらずシビットは路上で男を拾ってる
僕は路上で女にすがってる
シビット、シビット、僕のシビット
僕のところへ戻ってきてくれシビット
と、駒沢通りの向こう側のシビットに叫ぶ
でも、シビットには聞こえない
シビットが、そこにいたかさえ
もう僕にはわからないんだけど・・・





2001.5.18




自由詩 子猫のシビット Copyright 芳賀梨花子 2005-08-23 09:00:38
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