夜、ふれてゆく。
岡部淳太郎

ふっ、
   ふっ、と、
        ふれてゆく。
静かすぎる夜に、
綿毛の意志を運んでゆく。
日にさらされて、
火にあぶられて、
またもやさえぎられて、油っぽい焦りだ。
ふう。
   息のように、
煙草のけむりを吐いて、
ゆるやかにだるくなる。
あるいは覚醒、
眠れない夢精、
(どちらでもいい)
私はまたしても、

―ふるえている

その通りだ。
道を横切って、
真夜中の車輪に(轢かれて、)
ずれてゆく。
ふう。
   風のように、
吹流しの内臓を貫いて、
すみやかに通りぬける。
こんな夜をずっと過ごしてきたのだ。
こんな夜をずっと集めてきた、のだ。
久しぶりに、
個人的に、

―ゆれている

微弱な震度。
(私だけが感じることが出来る)
だから、
隠れなくても、良い。
夜はどうせすべてのものを覆い隠し、
包みこむように眠らせるのだから、
慌てなくても、良い。
ふう、
   息を吐いて、
(肺)を落として、
まろやかに均される。
私はまたしても、

―ずれている

のだが、
まだ、良い。
時間はあるから、
火を拝むまでに、
何とか水を目に慣らしておく。
ふっ、
   ふっ、と、
        ふれてゆきながら、
星のさえぎられた屋根になる。
(どんな気分がする?)
私は夜の閉め切った扉。
明けるまでに、
ふう。
   今夜も、風は、

―とまっている



(二〇〇五年八月)


自由詩 夜、ふれてゆく。 Copyright 岡部淳太郎 2005-08-20 22:27:02
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