昼休みのラーメン屋にて 〜ありんこ営業マンの夏〜
服部 剛
今日も額に汗を滲ませて
門前払いは覚悟の上
蝉の鳴き声しか聞こえない
住宅地のあちらこちらを歩く私は一匹のありんこ
無数のピンポンを押して
ようやく玄関のドアは開いて
満面の笑みと話術とサービスを繰り出し
オフィスの営業グラフが落ち込まぬよう
くどいたお客さんの喜ぶ顔を見れるよう
額の汗をハンカチで拭いつつ
一匹のありんこは今日もゆく
昼休みのラーメン屋でひと息ついて
しょうゆラーメンを待つ間
財布から給料明細取り出して
(日々ノ地道ナ仕事ハ果タシテ評価サレテイルノダロウカ・・・)
と声も無くひとりごちては
こんでいてなかなか来ないラーメンを待ちわびる
(安イ給料カラ・・・ナンデコンナニヒカレルノォ〜・・・)
明細のすみずみをみつめていると
日頃の仕事でうっかりと
自分が空けてしまった穴をふさごうと
飲み仲間の先輩上司のAさんや後輩OLのB子ちゃんが
冷や汗たらして西へ東へ四つんばいで這う姿が浮かんできて
鼻下に汗の滴を浮かべつつラーメンすすれば
3年前の職場でのあんな秘め事こんな秘め事や
×××××・・・
までもがなぜか思い出されて
(すでに職場を去ったC子ちゃんは今いずこ・・・)
上司の評価なんぞはど〜でもいいように思えてきて
しまいに鼻水たれてきて
挙句の果てに
手を伸ばした先の「スコッティ」の箱は空で *
仕方が無いから
明細ちぎって さっ とふいて
ラーメンの器の横に置かれた
隅っこのちぎれた明細は
4つにたたみ
ズボンのポケットにしまった
*スコッティ・・・ティッシュペーパーの銘柄