透明人間
ピッピ

あ、ああ、あ、ああ、あ、もうすぐ消えてしまう
昼がこわい、夜がこわい。ねじを。ねじを巻かないと、
昼がこわい、夜が。こちらの音をきくために、
あちらがわに回りこまなければいけないような、
そうだ、透明人間…誰にも見えない、きこえない。

ハロー、という言葉は軽すぎて、
だから、おはよう・ございます。濁点は、にごった心。
対峙すること、つくる笑顔。みにくい、みにくいように見える、
疲れるひとつひとつのことが、みにくい。それは、生きる
こと。
すり抜けた壁、一度きり、向こうには戻れない、戻れない、
だけど、きれい、みにくくない、きれい、透き通っている。

どこかで間違って、笑ってしまったんだ。笑えるように、
なってしまったんだ。こわい。視界の内側だけなのに、
もっと広く感じる。光の伸び、闇の縮み。何の意味も持たない、
記号の羅列。解釈しながら、こちらに向かうもの。
透明?ここには右手があって、左手があって、
それでおしまいじゃないか…。

夜がこわい、昼がこわい。いつのまにか世界はさかさまになって、
死んだものが生きていて、生きたものが死んでいる
1が0になるときの哀しみ。手に入れられるもの。
それらはなめらかに残酷だ。氷が融けて、ペプシコーラの色に
染まりつつあるコップの内側は、二度と、あの季節のかけらに
戻ることは出来ないのだろう、かわりに、鈍い色がうずまいた
透明な液体になった。

こぼれる。ねじを巻かなければ。たしかにそこにあったものに、
戻らなければ。そして、それは疲れる。見ないで。見ないで。
といって、透明人間はきえていく。ここからは、何もきこえない。


自由詩 透明人間 Copyright ピッピ 2005-08-09 15:55:01
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