包丁
大村 浩一


かくとは
どういうことだ

なまくらの安包丁
長く使い過ぎ
先がひん曲がって
薄肉を切るにも逸らされる
研石を買ってはみたが
いま切るのには役立たない


天井に匂いが立ちこめる
暗がりでせせら笑う
充血した果実
この歪んだ包丁で
きゃつらと関わらなければならぬ
鉄のひかり
交信せねばならぬ


二つに割る
真っ直ぐ突き入れても逸らされる
皮を剥ぐ
厚く果肉が削れる
汁で手がべたつく
もたついていると
指の熱で腐る

包丁はどうでも良い
果肉が欲しいのだ


研石はまだ
居間にある



2005/07/22
大村浩一


自由詩 包丁 Copyright 大村 浩一 2005-08-09 12:27:35
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