シブセンマックの朝の歌
恋月 ぴの

朝、男が目を覚ますと
マリーの姿はもう無かった
寝不足の物足りなさと疲労感
抜け殻のようなシーツの微睡みを残して
マリーは何処かへ旅立っていった

シブセンの朝は
怪しいキャッチの声に引きずられ
軒先の集蛾灯にはりついたまま
B-ガールたちは寝ているのか
アイシャドーの濃さに沈んでいる

男は小鳥のさえずりにも似た
見知らぬ少女の声を求め
テレクラリンリンハウスの一畳にも満たない
小さな部屋でソファーに座り
鳴りもしない電話器に想いを託す

持ち込んだベーコンエッグマフィンは
今はもう冷めて包装紙の中でうずくまり
相変わらず電話器は黙ったままで
ふと受話器を取り
男は潮騒の音に聞き耳を立ててみる

待ちくたびれた朝は
どうしようも無い程に気だるくて
ハチ公前からシブセンに向う
人々の流れに逆らいながら
男はJR渋谷駅改札口へと足を引きずる


自由詩 シブセンマックの朝の歌 Copyright 恋月 ぴの 2005-08-07 18:03:07
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