ビスを締める。
佐々宝砂

仕事中の脳味噌はとてもヒマだ。
だからビスを締めながらあたしは考える。

一日に24時間あるわけで、A勤かB勤の場合は8時間拘束、
AB勤は16時間拘束、C勤かD勤のときは12時間拘束。
通勤と待ち時間に3時間、睡眠時間は6時間、家事や食事に3時間。

ビスを締める。

AB勤C勤D勤の場合、睡眠時間さえ削らなきゃならない。
A勤とB勤の場合ですら、4時間しか残らない。4時間で何をしよう?
本を読もう。4時間あれば1冊読める。本のために働いてるような気がする。

ビスを締める。

たくさんのほん、ほん。それを読むことが生き甲斐のような気がする。
死ぬまでにあと何冊読めるんだろう? 一年に100冊いけるとして、
あと30年生きるとして、3000冊。3000冊っぽっち。

ビスを締める。

冗談じゃない。もっと読みたいのだ。だから、どうでもいい本なんて、
ほんとは読んでるヒマがないのだ。「読む」と決めた本は、いまのところ
少なくとも数百冊あって、それだけでも一生のうちに読めるかどうか。

ビスを締める。

もちろん自分の単純な楽しみのためにも本を読む。
だからマンガも読む。下らないのも読む。笑えるだけのものも読む。
読みに読む。だってそれがあたしの趣味、最大の楽しみなんだから。

ビスを締める。

できれば一日に1冊は読みたい。そうすれば1年で300冊、
30年間そのペースで読むとして、9000冊。
でも1日に4時間しか読書できない。なんとかぎりぎりで1冊読めるだろうか。

ビスを締める。

この調子でビスを締めると、一日に何本締めることになるのだろう。
でもそんなことはどうでもいい。
本が読みたい。

ビスを締める。「恋はみずいろ」のメロディがきこえる。

らーらーらららら、らーらららーららららら……あれ。休憩時間だ。
休憩所に本を持ってゆくヒマがないのが痛い。10分ものあいだ、
あたしは下らないお喋りと喫煙に時間をつぶす。

でもそのわずかな10分、読書もできない10分のことを、
あたしはずっと待ち望んでいるんだ、
まるで恋人との逢瀬を待ち望むように。






自由詩 ビスを締める。 Copyright 佐々宝砂 2005-08-02 03:18:12
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労働歌(ルクセンブルクの薔薇詩編)