波のまわりに
木立 悟




初毛の水紋
遠い雨雲
川が生まれ出るところ
谷をめぐる暗がり
稲妻を映す手のひら
狩りのはじまりの音


新月も終わり
諍いも終わる
花盗人の道に沿って
夜は子供の背中のように
なだらかにむずがゆく白みはじめる
土を照らす落ちた花びら
空の水を見つめている


使者は歩む
病む手に病む手を重ね
海へ連れていく
何かを欠いた砂浜の上
飛沫の虹をよけながら
長い髪がからみつく
病む手を引いていく


波のまわりに
飛ぶものが集まり
砕け散るかたちを追う
夜にはじめてあらわれる地
終わった祭が流れつく地で
からみつく髪を 指先を
ゆっくりと解いた そのあとで
降る声 止まぬ声
見える声に向かって
使者は腕と翼をひらく






自由詩 波のまわりに Copyright 木立 悟 2005-07-31 18:13:41
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