かなしい夏
塔野夏子

かなしい夏 ?


夏の首すじが
眩しい

何もすることのない午後

空気さえ発光している

しなやかな夏のゆびさきが
飽きもせずあやとりしてる

夏はあの木立のてっぺんあたりで
太陽に唇を盗まれる



かなしい夏 ?


秘密の庭
したたるような緑の
茂みの陰で
夏は誰かと
逢瀬を重ねる

そんな昼下り
時はいつも
だから
オレンジ・マーマレイド色に
なってしまう



かなしい夏 ?


しなやかな夏のゆびさきが
飽きもせずあやとりしてる

嵐の雲 ひとつ

太陽が機嫌をそこねたみたいに
光線のぐあいがちょっと変になる

嵐の雲 ふたつ

空のいろもなんだかおかしい
風も妙にけだるい温度

嵐の雲 みっつ

夏はなんにも意に介さずに
一心不乱にあやとりしてる

嵐の雲 よっつ いつつ

とりつかれたみたいに 
あやとりしてる

嵐の雲 むっつ ななつ



ネイティヴアメリカン(ナヴァホ)のあやとりに「嵐の雲」というのがある。
雲の数をひとつから順に、ふたつ、みっつ……と増やしてゆくことができる。


個人サイト「Tower117」掲載





自由詩 かなしい夏 Copyright 塔野夏子 2005-07-31 13:07:45
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