コトバ紀
043BLUE

その昔、人間は言葉という
原始的な道具で意志を通わせていた

言葉によって人は傷つけあい
愛し合い、殺し合ってきた

やがて、言葉は時代と共に衰退し
意志を通わせる必要のない
今日の世界が出来上がった

ここでは、すべてが完成されている
ぼくたちはただその完成モデルを
なぞればいい

この世界に失敗はない


いつしかぼくたちは
言葉を忘れてしまった

それは結局とても
便利で楽なことだったんだ

ぼくは思う
言葉が人間を裏切ったの
ではなく
人間が言葉を裏切ったの
だと

いや

言葉が人間を見捨てたのかも
知れない
言葉を信じられなくなった人間を
哀しみながら

それでも

ぼくは過去の人間を
羨ましく思う

完成された世界で
完成されたモデルを生きる
こんな世界よりも

不完全な世界で、
不完全な誰かを信じたい
不完全な言葉を信じたい
不完全な自分を信じたい

誰かを傷つけ傷つけられながら
愛し合いたい


完成された世界に
なくなってしまったもの
それは「信じる」ということ
なのかも知れない

それを
取り戻すために

ぼくは
もう一度
言葉を手に取りたい

それが
完成された世界を
壊す行為であることを
知りながら

ぼくは
もう一度
言葉を信じたい


自由詩 コトバ紀 Copyright 043BLUE 2005-07-31 01:02:13
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