星のうまれるところ
汐見ハル

ふりつもる夜の殻が
ふみしめるたび
かわいた音を立てて
砕ける
名前を思い出せない花の香りが
密度を増した湿度となって呼吸を
奪う
夜の果てにたどりつく
手っ取り早い方法は
眠りなのに
はがしてもその向こうに
幾重にもかさなる
うすい花びらに包まれている
そんなふうに
夜の果てをさがしあぐねて
もう眠りつづけることが
できなくなってしまって
あてどなくあるく
 
いつまでも明けない夜の底で
ふと
しろくひかる、小石
蛍のようにあわくにじむひかり
てのひらにすくえば
こぼれおちる
ドライ・フレークス
わたしの、闇
のこされた小石を
ほんとうには
さがしていたものではないと
知りながら
のみこめばのどの奥が
ちりりと痛み
いまさらながらに気づく
そういえばここは闇だった、と
 
そしてふいに
遠く
誰か、でしかない
誰か
そのひとの頭上、はるかかなたに
星はきらめいていた
ひとつきり
それはわたしの頭上でもあった
 
ただ ただ
星ばかりみあげて
腕を
ゆびを
のばして
とどかず
 
それでも
ただ ただ
星だけをみつめて
 
からだの真芯に
灯りつづけるひかりに
気づけないでいるひと
やわらかく、しずかに
あふれだす
涙、みたいな
 
目を凝らすと
ひかりの中心に
たぶん水晶なのだろう
すみついて、根を生やし
とがった
つるぎのかたちの結晶が
幾本も
星のかたちにのびてゆく
ゆっくりと
やわらかい内臓に
くいこみながら
 
風がとおる
名前のわからない花の香りが
からみついた皮膚に
ほどけて
 
苦痛に顔をゆがめ
それでもなお
届かない星に手をかざす
そのひとの
抱える星を
みつめつづける
声は出なかった
のどのおく
いちばんふかいところから
ちりちりと痛みはやってきて
わたしに教える
 
わたしの真芯にも
やはり
水晶が灯り
やわらかく
この身を食い破ってゆく
 
眠ることもかなわず
歩くことも忘れて
ただ みとれている
届かないことを知ってのばす腕は
つるぎのかたちにあわく
にじむひかりだ
 
星をみつめつづける
のぞむままに
夜は 終わらないだろう


自由詩 星のうまれるところ Copyright 汐見ハル 2005-07-30 22:18:49
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