夜の譜
木立 悟
緑に呑まれた家のかたわら
雨が次々と壁につかまる
二匹のけものの哭き声が出会い
遠くからさらに遠くへと
逃れるように午後を越えてゆく
空を影の卵が流れる
涸れかけた夜の水たまり
何かが焼けた跡のようにつづく
水の花
油の花
雲の花
道と道とを隔てて光る
流れない川の上に咲く
夜には夜の音があり
草の間を震わせてゆく
雨も 雨に触れたものも
すべてにじむ響きとなって
少しだけ朝を遅らせてゆく
白い光の帯が
角をゆっくりと曲がり 消えてゆく
夜の音は声になり
流れない川のそばに来て
水紋の言葉をひらいては
めざめ無きめざめに呼びかけてゆく