五十音頭韻ポエムな〜の
佐々宝砂
[な]
――懐かしい泣き虫さんへ
長雨のなか
なけなしの茄子がなったので
撫でまわして和んでいます
仲間にはなじみましたか
訛には慣れましたか
ないものねだりの
涙を流していませんか
なあに
悩みも嘆きも
なりわいも
なんやかや流せばいい
なりゆきでなんとかなります
夏になったら
夏木立のなか
夏風になぶられながら
怠けられるだけ怠けましょうよ
波打ち際に仲よく並んで
波を眺めて
生ビールなど舐めましょうよ
生意気な夏草は
なるたけなぎ払っておきます
長話もなんですからこれで
何かあったらなんなりとね
[に]
日曜日の日記には
煮詰まった苦笑いを
におわせたくないのです
虹は握れませんが
逃げ水は逃げますが
にわたずみは
にび色に濁りますが
贋者の名を担っても
贄として憎まれても
日曜日の日記には
憎まれ役のにやにや笑いを
にじませたくないのです
似気なく
西日を睨みつければ
にわかに
にいにい蝉にぎやか
[ぬ]
抜け目なく
ぬけぬけと主は盗んだ
鵺(ヌエ)よ
ぬるみぬかるむ沼から
ぬっと抜け出て
濡れ羽色のぬらぬらを
ぬかりなく脱ぎ去り
主は盗んだ
抜き差しならぬ
塗り隠された
濡れごとを
鵺よ
濡れ衣ではない
主のぬらつく抜け殻に
ぬれぬれとぬめるものは
拭いがたいのだ
[ね]
ねんねんねんねこ
ねずみはねむい
ねんねんねんねこ
ねこもねむたい
ねじれているのは
ねじりんぼ
ねどこでねだる
ねえさんの
ねものがたりに
ねいります
ねづかないのは
ねなしぐさ
ねんねんねんねこ
ねずみもねこも
ねんねんねんねこ
ねしずまる
[の]
のろのろと
登りゆく野道に
野いばら
野放しの罵りで
のぼせた脳髄に
野いばらの残り香は
のどかすぎて
のっぴきならない望みは
のどに糊付けされて
飲みこめなくて
のそのそと
登りつめた野原にも
野いばら
野火からのがれて
のびやかに伸びて
残る野花
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五十音頭韻ポエムポエムス(パキーネ詩編)