あたたかないばら
はな 


日に満ちた電車はそっと風になり火照ったほほをすりよせてゆく




夏に包まれた海の底の席で車掌が居眠りしつづけている




唇のはしからはじまる熱気にもあたたかないばら胸に抱いた日




ちぢみゆくがらす玉に手触れるように線香花火みおくる夜明け




まつげからこぼれ落ちるはマスカラと静かに降りる夜の帷と




冷蔵庫の奥に桃が呼吸して少しずつ泣く少しずつ泣く




聞き役はぽっぺんさんとオランダの風景画へと溶けてゆく蟻




水たまりどこまでも深く腕を入れ温かい手をそっとにぎった




新宿の南口には人並みとなみだあめがてんめつしている




風鈴の水際に音渡らせてささやくように消えてゆこうか




卵黄のきらきらひかる新盆はいくつものあしおとと暮れゆく








短歌 あたたかないばら Copyright はな  2005-07-21 02:51:12
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