私の友人
スプートニク

ドーナツの真ん中の穴から友人のAさんが訪ねてきた
「どうもどうも」
いやなに ちょっと暇だったもんだから
Aさんはドーナツの真ん中の穴から
ずかずか部屋に上がってきた

時々こうやって突然現れるのだ
3週間前は急須の中からやって来た
「どうしてるかと思ってね」
トポトポと良い香りのする紅茶を入れてくれながらAさんは話す
前回急須の中からやって来た時に
「最近のヒット紅茶」
とプレゼントしてくれたものだ

「ドーナツの中から出てくるとは思わなかったよ」
「ふふふ 油断したね」
「それにしても良い香り 女の子の匂いがする」

「ところで最近どう?」
そこで私はニヤニヤする
Aさんが来る時はいつも理由があるのだ
何も無作為にドーナツや急須の中から出て来る訳ではない
こう見えていい奴なのだ

「心配して来てくれたんでしょ」
ニヤニヤしながら話す私に
「あんたを見てるとドキドキするのよ」
ため息をつきながら答えた
「ごめんなさい」
Aさんには素直に謝ることにしている
私の数少ない女友達だから
とても大事にしているのだ

「いやならやめてしまいなさいよ」
私の数少ない友人達はたいていそうなのだが
男も女も一様に無責任なことを言う
Aさんもその一人
友人の無責任な言葉というのは
純粋に本心だったりするので救われる
友人以外で そうそうそんな言葉を口走ったりはできないものだと
常々感じているのでなおさらありがたい

神妙に話すAさんを見ていると しだいに心楽しくなってくる
いつもそうなのだ
Aさんは私が弱っていると 独自のアンテナで察知して駆けつけてくれる
で お茶を飲みながら遠慮気味に無責任なことをペラペラ話す
以外と小心者で心優しいので気を遣いながら話すのだ
でも肝心なところはきちっと無責任な発言をしてくれる

私はそんなAさんを可愛らしく思う
で 口に出して「Aさんはかわいいなぁ」と言うと
「まじめにっ」
とAさんは照れながら怒る
「ごめんなさい」
私は素直に謝る

「おなかが減った 甘いものが食べたい」
とAさんが言う
「白玉団子を作ろう」
私は白玉粉の残りを出してきて言う
あんこもあるし
「いいねいいね」
と二人うきうきしながら狭い台所で身を寄せ合う
簡単に作れる白玉団子は私の常備おやつである

ボウルに残っていた白玉粉を全部入れ水を入れて混ぜる
「なんかしゃばしゃばしてない」
「・・・水入れ過ぎちゃったみたいどうしよう」
愕然としゃばしゃばの白い液体を見下ろす私にAさんは
「フライパンで焼いてみようよ」
ほら、ホットケーキみたいに

それは良い ということで私達は恐る恐る
うっすらと油のひかれたフライパンに白い液体を流し入れてみる
直径5cmの白いまるをいくつか並べる
水分が蒸発してあっという間に固まっていく
両面に焼き色を付け 皿に移してあんこをのせ半分に折りたたんだ
出来上がった焼き白玉包みをてきとうに皿に並べて
私達は顔を見合わせくくくっと笑った

「なんかおいしそう」
「餅だよ餅」
これが以外とおいしくてどんどんなくなっていく
最後の一つはわざわざ来てくれたAさんに譲る

「あぁおいしかった おなかいっぱい」
じゃぁそろそろ帰ろうかな
気がつけば西日が眩しい 洗濯物を取り入れなくては
「来てくれてありがとう」
「いやいやごちそうさま」
また来ますよと言いながらAさんはすたすたと玄関へ向かう
帰りは玄関から帰るようだ
「あんまり心配させないでよ」
それではさようなら

ぱたりと扉が閉まった


散文(批評随筆小説等) 私の友人 Copyright スプートニク 2005-07-19 12:46:37
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