肥溜の中から産声を
みもる

駅のホーム隅のいつも同じ場所に
仙人のような老人が

生きているのか死んでいるのか
疑問に思わせるくらい微動だにせず眠っている

ニュースで流れている
数字だけで表される悲しみは

どれだけ増えようと
君一人に勝ることはない

毎日マリア様に祈る少女の
父親はとうに戦死し
母親は別の男と楽しくやっている

被害者たちの永遠の悲しみをよそに
それでも地球はしあわせに満ちている

まるで彼らをあざ笑うかのように

骨一つも残さずに消えてしまった君に
儚い願いを込めて

どうか届けと
果てない海に花束を投げ入れると

釣りをしていたオッサンに
「海にゴミを捨てるな」と怒鳴られる

帰りに同じ道を通ると
仙人の姿は消えていた

ぼくは

ぼくは今日も夜な夜なナイフを磨ぐ

来たるべき日が来た時に
すべてを切りひらくために


自由詩 肥溜の中から産声を Copyright みもる 2005-07-19 00:38:54
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