原石
アンテ


ビンいっぱいに詰まったビー玉
フタに開けた小さな穴を
片目で覗き込むと
不思議な光の模様が見えた
きれいでしょ
となりん家のけーたくんが
得意げに笑った
世の中には
キラキラ光る透明な石があるのよ
そう教えてあげたら
けーたくんの目の色が変わった

透明な石だ
と思って拾うと
ジュースのビンの破片だった
波に洗われた時間のぶんだけ
きれいに角が取れている
波打ち際に転がった
おびただしい数の小石
よく見ると
ビンの破片はあちこちで
小石になりすましている

初めてけーたくんの部屋に
お邪魔した時のこと
部屋の至るところに
お菓子の箱が積み上げてあって
蓋が四角くくり抜いてあった
けーたくんは恥ずかしそうに
まだひとつも見つかってないんだ
顔を赤らめた
わたしは言葉を呑み込んで
手を差し出した
好きよ
石を見るのって

男の子がキライじゃない理由
を考えながら
波打ち際を歩く
けーたくんはすこし遅れて
小石を物色している
きっとわたしは
硬すぎて欠けない石だ
どれだけ波に洗われても
尖った部分を隠し持っていて
拾っただれかを傷つける
男の子はキライじゃない
でも
好きにもなれない
今度こそ傷つけまいと心に誓うのに
気がつくと
いつも手遅れだ

箱のなかには
格子状の仕切りがあって
ひとつずつに
きれいな小石が入っていた
集めるのが好きなんだ
だから
見つけてしまっても
口に指を当てる
言葉をさえぎる
今度いっしょに探しに行こうか
けーたくんは本当に嬉しそうに
何度もうなずいた

こんなところに
宝石なんて落ちていないのよ
そんな一言を
なんど呑み込んだだろう

波打ち際を歩いていると
お腹が突然熱くなって
膨張をはじめた
熱の塊はお腹を内側から押し広げ
風船のように膨らんでいく
服がめくれて肌が剥き出しになる
熱くてたまらない
転んで膝と両手をつく
小石のざらざら感
おへその穴が開いて
内側から押し広げる力
透明な原石が
こぼれ落ちる
けーたくんがわたしを呼ぶ
波がくり返し
膝や手にまとわりつく
原石を洗う
おへそが閉じて
お腹が急速に収縮して
服のなかに収まって
おしまい
もう熱は感じられない
けーたくんの手が原石を拾う
ゆっくりと持ち上げて
太陽に翳す

強い輝き
眩しすぎて
正視できない

掘っても掘っても
浜辺には小石が埋まっている
遠い昔は波に洗われていた証拠に
どれも角が取れて丸い
深く深く掘り進めば
いつか
キラキラ輝く透明な石が
見つかるかもしれない
ここに原石が偶然あった可能性は
ゼロじゃない
案外あちこちに
埋まっているのかもしれない

大きく振りかぶって
サイドスローで投げ出された原石
けーたくんの指を離れて
キラキラ光りながら
波間に呑まれる
なかったことになる
わたしは一人
波打ち際を歩きはじめる
けーたくんはしゃがみ込んで
小石を物色している
遠ざかる
遠ざかっていく



自由詩 原石 Copyright アンテ 2003-12-13 09:52:09
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