靴 〜マンションの階段〜
コンパス

「監督ぅ、ここの寸法はどのくらいにしたらいいんですかー」
越後工務店の若い職人が急ぎ言う
「そこは、rがこれくらいだから・・・」
サンダルを脱いで上に上がると
こっちをちょっと振り向いて監督が
「そこの机でちょっと待ってて」
ビー、ビー、ビー
よこでFAXの送信が始まった
   ・
マンションの現場は久しぶりだ
ヘルメットないけど
頭には気をつけなくちゃ
石膏ボードの壁張りは
もう始まったのかな
   ・

「この建物は10階まで、全部で33室ある。
全部の平米出して、単価いくらになるか見積もって。
部屋を見たければ見てきていいよ」
靴を履き
花壇の植え込みを横目で見ながら
1Fから10Fまで
コンクリートに鉄パイプがむき出しの階段を
頭に気をつけて上る
部屋の中で間取りを見て、
職人と「あーでもない、こーでもない」と話をする
  ・
何だか足が痛い
靴が窮屈だ 
足が全部入っていかない
足の裏がふわふわしている
誰かのと間違えて履いてきたらしい
十階までひょこひょこ一回りして
プレハブに戻る
自分の靴がない
しょうがないな
   ・
事務所に上がって監督と再び話をする
「間取りが結構あるから4人使って、1週間、
人区賃いれて、平米単価これくらいですかね」
「う〜ん?そんなもんで商売になるのか。少ないな?
そんなもんじゃないよ。わかった。
もう少し、余裕あるから明日正式に見積書もってきて」
「はい、よろしくお願いします」
    ・
玄関口に行くと
やっぱり自分の靴が見当たらない
どうしよう
帰れない
知らん振りして
さっきの靴履いて帰ろうか
    ・
そこへスタスタスタとあすなろ建設の監督
憮然とした表情で
「その靴、俺の」 
よく見ると玄関の端っこに
今日はいてきたサンダルがあった
「faxもあるけど、鏡つけて持ってきて」
「よろしくお願いしま〜す」
    ・
その日、俺は久しぶりの現場で頭が混乱していた。
サンダル履きだったのに靴と間違え、
その上、監督の靴を履くなんて。
俺はもう一度、花壇の植え込みを見た
そして棟へ上る監督を見上げながら
何だか妙に幸せな気分でサンダルを履いてうちへ帰った

  





自由詩 靴 〜マンションの階段〜 Copyright コンパス 2003-12-12 15:29:25
notebook Home 戻る  過去 未来