「 湿った風。 」
PULL.







湿った風が頬を撫でる。
低層とはいえ、
屋上に吹く風は、
やはり地上より少し強い。

初夏の太陽のまなざしを受け。
はたはたと、
風に揺らめく白いシーツは、
恥ずかしげに少し俯いている。

ここから見える風景は、
どこか他と違って見える。
なぜなのかは分からないけれど。
こうしてここに立っていると、
地上の底にいるような、
そんな気分になる。

湿った風が髪を擦る。
きしきしと、
髪を擦り、
耳元で呟く。

「おまえのせいだ。」

涙は雨のように落ちて、
コンクリートの隙間の雑草に抱きしめられた。

風が止んだ。

見上げた空の向こう。
マンタが大きく口を開け、
二つの太陽を呑み込んでいた。


彼女は、もういない。













自由詩 「 湿った風。 」 Copyright PULL. 2005-07-13 13:11:13
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