龍二

夏の終わりを告げる時、大地に帰る多くの蝉達。たったひと夏、泣け叫び、そして彼等はいなくなる。
土の中と、地上、一体どちらが平穏で、幸せだったのだろう。もしかすると、蝉の声は、歓喜の雄たけび、喜びの喝采では無く、悲痛なる叫びだったのかも知れない。
「戻りたい」。彼等はこう叫んでいたのかも知れない。
でも、もう二度と戻れない。あの平和、誰からも見られる事も、誰からも捕まる事も無く、だたひっそりと過ぎる自分一人の時間という幸福は、もう二度とは戻っては来ない。

何故、こんなにも辛く、苦しい地上に這い出なければならなかったのだろう。凄惨なる体験をする為だけに、生まれて来たとしたらそれは余りにも救えないのではあるまいか。
僕達は生まれながらに、誰かに見られ、誰かに捕獲され、誰かに愛玩され、誰かに拘束されている。一人、ひっそりと過ぎていく時間など、持った事は無い。
僕達が持つ言葉というツールは、全て、悲痛な叫びなのかも知れない。気が狂いそうになる様な時間を、膨大な時間を、消費していく。
孤独という幸せを知った蝉達には、耐えられない。この悲劇の中では一週間しか、生きられない。


自由詩Copyright 龍二 2005-07-13 04:08:11
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