叫びと沈黙
安部行人
叫びが聞きたい
地上のどの声にも似ていない
見えない波長の叫びを
午前零時
どこかで叫びがあがった
均された街の
よく似た通りと通りのあいだのどこかで
どこかで叫びがあがった
沈黙を知りたい
重力の果てにあるような
圧縮された無限の沈黙を
午後零時
街は沈黙していた
熱にゆらめく空気のなかで
あらゆる通りは沈黙していた
叫びはいつも
沈黙のなかに潜んでいた
沈黙はいつも
叫びの途切れる瞬間にあった
叫びが叫びを呼び
沈黙が沈黙を呼ぶ
叫びと沈黙だけの世界
叫びが叫びとして聞こえる世界では
生は生そのものであり
死は死そのものであり
生と死は同じものであろう
沈黙が沈黙でありうる世界では
昼は昼そのものであり
夜は夜そのものであり
昼と夜は同じものであろう
ふたたびどこかで叫びがあがり
ふたたびすべてが沈黙に満ちる
そのとき
生は死に
昼は夜に
叫びは沈黙になるであろう