不連続小説 『煙道 2』
クリ

■二番目の千文字 Endorphine

高さ50センチほどの演台に直接胡座をかいて座っている二人の老人は、しばらく瞑想しているかのようだった。
一人は白髪、もう一人は禿頭で、両人とも優に80歳は超えているだろうと思わせた。
数十秒後、白髪の老人が携えた皮革性らしき大きめのパウチから何やらもぞもぞと取り出し始めた。
左手の掌にパウチの中身をサクサクとこぼしだしたが、遠目には茶葉ではないかと思えた。
私は通訳を通して長老に「あれは何か」「彼らはこれから何をするのか」と尋ねた。
「煙草を吸います」というのがその答えだった。
まだ小学生だった頃、一度だけ煙草を吸う大人を見た覚えがある。とても怖かった。
当時、喫煙の習慣は完全には禁止されてはおらず、各地の条例に委ねられているだけであった。
私の生まれ育った土地ではまだ禁止されてはいなかったが、それでも喫煙者は非常に珍しい存在であった。
だからその村で喫煙を目の当たりにすることになったとき、私は正直少なからず怖じ気づいた。
なんだか黒魔術の儀式の場に心ならずも居合わせたような、後ろめたい気持ちが沸々としてきた。
それよりもなによりも「煙草を吸う?」どういう意味だ。何か特殊な葉を吸うのか?
つまり幻覚作用のあるものを吸引した上で何かしでかす、ということなのか。
それとも、みんなで回し喫んでトリップでもしようということなのか。それなら遠慮したい。
しかし葉は普通の煙草であり、喫煙するのは彼らだけであると言う。まあ見ててごらんなさい、と長老。

白髪の老人が煙草の葉を両手で揉み出すとなにやらブツブツと呪いを唱え、禿頭の老人に体を向けた。
両手を杯のようにして煙草の葉を受け取った禿頭の老人はそのまま掌を閉じ、ゆっくりと再び揉み始めた。
しばらくして彼が掌を開くとそこには一本の紙巻き煙草があった、まるで手品のように。
葉を受け取ったときに彼の掌にあらかじめ紙があったかどうかは私たちの一人として覚えていなかった。
髪があった年月よりない時間のほうが長くなってしまったであろうその完璧な禿頭に煙草が押しあてられた。
すると彼はおもむろに煙草のスティックの先端を禿頭で摩擦し始めた。
ゆっくりゆっくり、まるで幼い子を愛撫しているかのように、目をつぶって。
最初、彼の頭から湯気が立ち昇っているのかと思えたものは、煙草の煙なのであった。
彼は火のついた煙草を急いで口にくわえると強く吸引した。
次の瞬間、濃い紫煙が私たちの鼻孔をくすぐった。


                              Kuri, Kipple : 2005.07.06


散文(批評随筆小説等) 不連続小説 『煙道 2』 Copyright クリ 2005-07-07 20:55:10
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