シ———————。
ヒビノナコナ

波の音が静かな夜 浜辺で
一人の男が死に絶えた
穏やかな顔をしたきれいな女が 
ゆっくりナイフを刺していた

奇跡はそれの直後のことで
大きな波が 屍を広い 海へ連れて

女はそれを見つめただ見つめていた

並の男じゃ流れやしない涙
悲しい気持 最期は「ありがとう」
いいえ違う 両手をつないだ
女はくりかえしつぶやく

そしてそっと涙を流す
小さな震えが蝕んでいる

海のそこで男はやっと
母を見た 父を見た 夢を見た
金を見た 君を見た 女を見た
海のそこで男はやっと
雨をみつけ 晴れを知った
やがて 砂に 砂に… なった

打ち上げ花火 灰が降る
穏やかに微笑む 老女ひとり
砂を涙が染めた上 ひかり
あのときの色 赤い色…

裏切りの先で女は今も
母を見る 父を見る 夢を見る
金を見る 君を見る 男を見る
海のそこを覗いて 今も
男を恨み いつくしんで
やがて 年を 年を とった

奇跡はそれの直後のことで
大きな波が 屍を広い 海へ連れて

いった


自由詩 シ———————。 Copyright ヒビノナコナ 2005-07-06 20:18:51
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