首の後ろ側
アンテ


シャワーは
なかなか熱くならない
歯がカチカチ鳴る
なんでこんなことになったんだろう
鏡のなか
寒さに背を丸めた女が
涙でにじむ
冷たい水が排水口に吸い込まれていく
湯舟につかるわけにはいかない
温かすぎて
二度と出られなくなってしまうから
ようやくお湯が出はじめる
首の後ろ側
後頭部のすぐ下にシャワーを当てる
割り当てられた道順をたどるように
お湯が肩から胸を伝って
下腹部を濡らして床に落ちる
身体が温まる
あるいはそう勘違いする
五感を騙すことなんて簡単だ
シャワーの微妙な角度で
お湯の大半が背中へ移る
あるいは顎を伝って滴る
なにかがうまくいかなくなるたび
こうやって
自分をごまかしてきた
今度だって大丈夫
バスルームが温まったので
簡単に髪を洗う
身体を洗う
鏡が湯気で曇っている
情けない自分の姿を見なくてすむ
なぜこんなことになったのか
本当は判っている
いつか
お湯が出なくなるかもしれない
いつまでたっても
バスルームが温まらないかもしれない
シャワーを止めて身体を拭く
バスルームを出る
冷気で身体が熱を失うまえに
手早く服を着る
それだけがわたしの取り柄
性懲りもなく
外へ出かける準備をする




自由詩 首の後ろ側 Copyright アンテ 2003-12-10 01:42:22
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