ベランダで栽培するプチ・ボーイフレンド
あおば


バルコニーに上がって
退屈なときは
シャボン玉を吹いたり
ハモニカを吹くんだ
風がさわさわとして
気持ちが好いよ
近所の子供が自慢そうに言う
最近引っ越してきたばかりの子で
2階建ての新築の建て売り住宅に住んでいる
大金持ちというわけではないが
むろん貧乏な家の子ではない
それは
高慢ちきでない素直な話し方で分かる

その頃の住処は
昭和の初め頃
祖父が建てた家で
板壁なのに
隙間だらけ
風が吹くと
埃っぽくて
住み心地は好くないが
天井が高いので
夏は比較的過ごしやすい
しかし
冬は寒く
東京の郊外なのに
枕元のコップの水が凍ったりしていて
驚かされることがある
むろん平屋建てなので
バルコニーはおろか
ベランダも無い

いつも
ベランダに腰掛けて
遠くを見ている犬が居る
なんという種類の犬が知らないが
犬のくせに
たいしたものである

平屋に住んでいると
二階屋は尊大で威圧的に思える
だから犬をベランダに放って
下を歩く人たちの素朴な好奇心を攪乱して
視力を遮るのかなとも思う
そして
プランターに土を盛り
如雨露で水をやり
トマトや胡瓜を植えるのは
犬が居なくなってからの
話であろうと思う

バルコニーには
ストイックな
恋人たちが必要で
甘ったれる犬コロを飼うには
ベランダで十分だと言うと
くだんの男の子は
うちのはバルコニーで
断じてベランダではないと
強く言い張る
確かに恋人たちにも
幼く甘い時代は必要で
ベランダでトマトを育てる暇があったら
バルコニーで空を眺める訓練をした方が良い

なぜだか知らないが
その頃もそう思っていた。





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タイトルは「ANNE ∞ limited 」の「奇天烈デモクラシー」より


自由詩 ベランダで栽培するプチ・ボーイフレンド Copyright あおば 2005-07-01 01:49:57
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