団欒
ならぢゅん(矮猫亭)

 うちのテレビは壊れているのだ。きっとそうだ。そうでなければ毎日こんなに人の死ぬところばかり映るはずがない。たとえば今朝のニュース。黄色く乾いた土の上に八人の男が正座させられていた。その後ろには黒づくめが一人、覆面の穴からのぞく眼は無表情で男か女かも判らない。ふいに三日月刀を振り上げると男たちの首をはねてゆく。そのたびに頚動脈から吹き出した血が作りものめいた青空に向かってうち上がる。次々に高々とうち上がる。だが七つめの血柱は勢いあまって仰向けに倒れシャーシャーいいながら回転した。まるで大きな鼠花火。噴射された血がブラウン管を濡らし時報が見えなくなる。慌ててティッシュをこすりつけても内側から汚れたものはぬぐえるはずがない。チャンネルを替えても無駄だ。これでは時間がわからない。いつもの電車に乗り損ねると朝の会議に遅れてしまう。食事を途中で切り上げ着替えを始める。ネクタイをしめながらテレビに目をくれると赤い画面がぐぐいと盛り上がってくる。キシシ、キシシシ。なにか黒いものが内側から押しつけられているのだ。キシシ、キシシシ。しかし、そんなものに気を取られている暇はない。鞄をつかみ玄関に向かう。キシシ、キシシシ。いってくるぞと振りかえる。すると、きゃりん、ガラスが砕け赤黒く髪を濡らした頭が勢いよく飛び込んできた。妻と子の歓声に迎えられ頭は食卓の真中に着地する。ああもう仕事どころではない。日曜日にもありえなかった盛大な朝の団欒が始まるのだ。いよいよ始まるのだ。


自由詩 団欒 Copyright ならぢゅん(矮猫亭) 2005-06-30 12:20:04縦
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