六九郎

渋滞の信号で隣に並んだ黄色い車
火のついた煙草を挟んだ女
の指には銀の指輪
薄い色のワンピースの中の腕
肩まで伸びた黒い髪
閉め切った窓の中で動く女の唇
四十がらみの女のうたう歌
ふふん、カーステに合わせて懐メロか

と音のない衝突音が弾け
女の頭がヘッドレストにぶつかる
前を向いたままの女の横顔
にふりかかる黒い髪
激しくヘッドレストに当たり続ける後頭部
動き続ける唇
おれに気づいた女の
剥き出しの目

おれは視線を外し
ハンドルを握ったまま前の車を見つめる

隣の車の中でヘッドレストに頭を打ち当て続ける女
の黄色い車の中で激しくぶつかり続ける後頭部
音を出さずに動き続ける唇
吸われないまま灰になり続ける煙草
いつまでも閉められ続ける窓


未詩・独白Copyright 六九郎 2003-07-02 18:06:51
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