夜の音
木立 悟



言葉になる前の言葉から
鳥は滴にしたたり降りる
空になり木になり土になり
重なる光にひらきひらかれ
目をふせ ひろく
ひとつにたたずむ


夜の雨音の冷たさが
肩から腕へと流れ落ちる
窓を閉じてもふるえは止まない
めぐりめぐる声も止まない


空を踏みしめ歩む音
朝を銀に置き去る音
遠く滴をもたらす音
見えない光の源の音


誰にも代弁することのできない
ひとりの赤子のたましいがあり
羽から羽へとわたされてゆく
生まれたときから器のなかで
ひとり静かに幾日かを苦しみ
息を引きとるときにはじめて
母親の手に触れた赤子
何も知らずに帰った赤子
来たところへと帰った赤子


鳥に映る鳥の姿
ひとつの羽からはじけるように
数え切れない羽にひろがり
ふたたびひとつの姿にもどり
鳥に寄り添う鳥の姿を
空にはばたく鳥の姿を
重なるかたちに繰りかえす
ひとつのなかに繰りかえす


夜を飛べない鳥がいて
目をふせ 夜を聴いている
砂の波は打ち寄せて
野と原の間を埋めてゆく
風に流れる足跡の影
冷たさのかたちと赤子のかたち
言葉になる前の言葉に照らされ
鳥は夜を越えてゆく







自由詩 夜の音 Copyright 木立 悟 2005-06-28 20:32:44
notebook Home 戻る