地球の裏側
岡部淳太郎

今日いる場所も
明日いる場所も
ひとつの裏側
表側としか感じることが出来ない
かもしれない
ひとつの裏側
ここは寒いが
そこでは暑い
君はたしかな表側
同時に君は
ひとつの裏側

君は雑音
君は雑草
何度でも立ち上がり
何度でも坐り直す
あるいは君は
静かな息
つぶつぶの
ひとつぶの息
回る
表側から
裏側へ
そしてまた一周して 表側へ
回り戻ってくる
明らかな分子
そして原子

君は表側 そして
たしかな裏側
ああ
と云って立ちつくす
時の慌しさに
遅刻の感覚に脅えふるえる時
君はたしかな表側にいる
君は騒音
君は騒霊
あるいは君は
静かな思い出
石の繰り言

光の傍に影があり
影の裏には光がある
海のように
青すぎる謎のままに
君は立ちすくむ
何度でも起き上がり
何度でも眠り直す
見慣れた風景
それがかすかな色彩と
輪郭の変化をともなって君の目に迫る時
君はたしかに
ひとつの裏側にいる
ここは寒いが
そこでは暑い
君はたしかな裏側
同時に君は
ひとつの表側

服を着替え
間違えて裏表に着てしまったような感覚で
君は立ち止まる
歴史の上に
文明の中に
君は立ち迷う
ここは
ひとつの表側
たしかな裏側
そこも
ひとつの裏側
たしかな表側
つぶつぶの
ひとつぶの水滴
回る
空のように
深すぎる謎のままに
回り戻ってくる

君は裏側 そして
かたくなな表側
ここがひとつのものの
裏側でしかないという思いで
君は立ちつくす
君が回す
君が聴く
音楽
たしかな表側 あるいは
ひとつの裏側
らら
と云って立ち止まる
つぶつぶの
ひとつぶの音符
通り過ぎる 歌
回る
回ってゆく
回り戻ってくる
歌は回る
地球は回る
君は表側 そして
たしかな裏側
ここは寒いが
そこでは暑い
逆巻く
逆流
立ちすくめ
ブラジル!



(二〇〇二年十二月)


自由詩 地球の裏側 Copyright 岡部淳太郎 2005-06-28 00:45:56
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