冬越し
AB(なかほど)


 この頃 冬といっても
 僕の国や
 何も知らない人達の国では
 ギリシャ世界のアネクメーネのように
 どんなに寒くても
 明日への蓄えがなくても
 火の点し方さえ知らなくても
 飢えることはなく
 凍えることもない
 そして夜の静寂の力に
 体を強張らせることさえもない
 昨夜  
 玄関の引き戸を滑らすと
 どこからか冬越しバッタが飛んで来て
 奥の方からうすく漏れる光に
 恍惚の目を滲ませていた
 六十年ぶりの大雪の後の雨に
 温もりを感じて出てきたのだろう
 今 僕らが
 命を削って求め続けている物も
 このわずかな温もりと光ほどに
 真実に近いものであれと願う



    


自由詩 冬越し Copyright AB(なかほど) 2003-12-08 06:29:59
notebook Home