棘と雛(残雪)
木立 悟




石の階段
午後の黄緑
低い風が乱す水面
数える間もなく
ひとつになる曇
水の上から 動かない曇


空の水に落ちる光
高く高く沈み遠のき
にじむ羽のあつまりの
まわりつづける輪のように去る


棘のある手を握りつづけ
光に近い渦のなかを
ゆっくり揺れる雛たちの列
血の矢印が流れ去っても
見え隠れする血の標へと
少しずつ少しずつ雛たちは歩む
かすかな残雪の音をゆく


雪の轍は水紋のように
雪の足跡は魚のように
夜のはじまりの蒼に震え
高さも低さも上下もなく
まぶたの狭間にあふれてゆく


蒼のなかに点る灯は
枝や葉や花を伝い
歩むもののかかとを濡らす
歩むものの
かかとだけを濡らす


鉱はふいに雛たちの手を取り
遠去かる道の星雲を指す
血は薄れ血は乾き 棘の手は離れ
灯は木々に燃えうつり
枯れ野の境に消えてゆく


夜明け前の声は明るく
原の闇を梳いている
道は冷えていけばいくほど
川と同じ光にさざめく
はぐれては夜を照らすたましい
ひとりだけ銀へ向かうたましい


鉱に翼を与えられ
はばたきはもはや血を見ずに飛び
渦は曇のなかのひとつに遠のく
ひとりの雛だけが棘の手を取り
血を流し道を歩いてゆく
新たな標と矢印を描き
目に見えない残雪のつらなりを
かかとだけが知る冷たさの道を
歩いてゆく








自由詩 棘と雛(残雪) Copyright 木立 悟 2005-06-24 23:08:40
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