百鬼句集・赤色版
佐々宝砂

暑さゆゑ眠れぬと生皮を剥ぐ

炎天や毒蛇暴るる腹の内

息づくよどみに足をとられた

君がやさしく手をのべれば滴る血

くすりゆびだけのびあがり霧の沼

首無しが首締めてゐる芒原

工場伝説 ラインに生える 指、指、指

舌を見せ白き歯を見せ山笑ふ

シュレーディンガーの猫連れ地下の友が来る

てまねきは格子の向こう冬かもめ

霧の沼とつぜん響くファンファーレ

てまり唄死体はよっつ謎ひとつ

なげけとて月に言われてバカヤロー

肉喰へば肉の戦(そよ)ぐや虫時雨

のどの傷を月光に曝せ

走り去る無人のダンプ油照り

吐けど吐けど消えぬ緋文字や半夏生

窓割れてなにやら怪し霧の宿

モスラーやガバリと割れた繭がある

ものなくてもののけもなしあきのかげ

れんれんとあなたをしまう地下の檻

をみな泳ぐ水子蛭子(ひるこ)をかき抱き


俳句 百鬼句集・赤色版 Copyright 佐々宝砂 2003-04-06 00:48:12
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