クイーン・マりーはぼくのともだち
藤原 実
おやゆびこぞう が納屋におしいり
密会していた ひとさしゆび と なかゆびじいさん を
ナイフでひとさし して逃走しました
くすりゆびくん と こゆびちゃん は
さっそく捜索を開始したのです
1 五匹のこぶた の証言
ぶぎイうぎイ ぼくぁみたよ
おやゆびこぞう がナイフをちらつかせてたのを
ぶぎイうぎイ ぼくぁみたよ
おやゆびこぞう がねこのしっぽをきるところ
ぶぎイうぎイ ぼくぁみたよ
おやゆびこぞう がハンプティをつきおとすところ
ぶぎイうぎイ ぼくぁみたよ
おやゆびこぞう がふとっちょジョンのくつをかたほうとるところ
ぶぎイうぎイ ぼくぁみたよ
おやゆびこぞう がはしってどっかへゆくところ
2 ひざこぞう の証言
たしかに おやゆびこぞう と ぼくは
おさななじみだが
こんどのことについてはなんにもしらぬ
だけどみんなが だまってるなら
ぼくが はなしをしなきゃなんない
3
つぎの朝 ひざこぞう が何者かに殺されているのが見つかりました
胸にナイフが刺さっていました
くすりゆびくん「おや?このナイフは」
こゆびちゃん「たしかに!」
4 おやゆびこぞう の手紙
おかあさん おげんきですか
いまでもむかしのぼく宛の 手紙をかいていますか
ぼくがこんなおとなになったので
こどものころのぼくに 手紙を書いて教育しなおしてる
なんて言っていましたね
こないだ公園で 少年時代のぼくにばったり会いました
いろいろグチるので うざったいので刺し殺してやりました
これで おやゆびこぞう はこの世に存在しないことになりました
すると ぼくはだれなのでしょう?
おしえてください おかあさん!
5 ひとさしゆび と なかゆびじいさん の恋歌
煙草火を遠き火事より継ぐ男横顔やさし星の恋かな
密会や夜汽車ゆるやかに曲がり来てわが胸中の断崖に墜つ
夏帽におさめた君の黒髪をほどけば左右対称の月
君とわがたましい堕ちること知らず王の兵士も馬もまどろむ
6 汚れつちまつた悲しみに
ひとりの私立探偵が依頼をうけてこの事件の捜索をしていました
ところが おやゆびこぞう という男などもともと存在しない
ことを知り 探偵は世の不条理をおぼえるようになりました
遠い空の下の挽歌も
王様の美しい牧場を駈ける馬も
どうすることもできない
地図を手にした探偵はもはや通い慣れた道を
しらみつぶしにする
まぶしい砂漠に落ちた一片の氷のように
あわれな女がたちつくしている
ある朝
探偵は町はずれの小川に
ずぶりと身を投げた
森に踏み迷った少女の声は
だれの耳にもとどかぬまま
事件は忘れ去られた
7 逃亡者
野ゆき山ゆき海辺ゆき・・・
8 くすりゆびくん と こゆびちゃん
少年はゆうべにお祈りをささげると
空の月をお皿に盛って
少女のまえにあゆみ出る
モーツァルトを聴きながら
二人はそっと鍵穴をのぞきこむ
この扉をひらいてしまえば
ちょうど鏡のように すべて
裏返しの世界が あるんだ
お月さまは皿のうえ
うれいをふくんだ
光で二人を照らしつつ
9 教訓
クイーン・マリー へ
<いきてゆくことは 道化師になることです>
おやゆびこぞう より
10 エピローグ
詩人・・・片目をとじた哲学者
詩人・・・礼儀正しい猫
詩人・・・屋根にのぼった救世主
詩人・・・パイプタバコをくわえたおもちゃの兵隊
詩人・・・窓から子供部屋をのぞきこんでるライオン
詩人・・・なぞなぞ好きの消防署長
詩人・・・自分のためにお経をあげて
詩人・・・それでもうたのしいことはみんなおしまい