過剰な警報の遠鳴りを聞いて
黒田康之

お前は私の女なので
お前が誰と寝ようが詮索はしない
私はお前の男なので
お前に誰と寝ようが詮索はさせない

お前は一六五センチの背丈を歪めながら
私のためのじゃがいもを茹でている
お前の太腿は陽に焼けて黒く
張り詰めた肌が光っている

いつだったかお前が育てているロシアンセージを
グシャグシャに踏み潰したときのように
お前の体は強く匂って
染め損ねた髪からは
街とプールの味がして
その太腿を私は愛してやまない

お前の体は多くのことを知っていて
だから私はそれ以上の愛を注ぎ込むことに専念をする
まだ若いお前の声は時々鼻にかかって
後悔と恨みを口にするが
それとてもお前の愛だと
まだ茹でたてのじゃがいもをそのまま食べる

浅黒い硬い乳房よ
その緩やかな稜線とともに私は夏を迎え
互いの多情を慰めあうのだ

太陽が熱く熱く照るとき
獣のお前に空気はしぶきとなって襲い掛かり
壊れることを希求する
お前の心と体を
覆い尽くすだろう

その姿を見て
その愛に染まって
私はまた深く深く
お前の体に指を喰い込ませてゆく

何よりも強い匂いのする空間で
肉食の獣としての愛を吸い合う
充実とはこのことだと祈りつつ
祈りつつ



自由詩 過剰な警報の遠鳴りを聞いて Copyright 黒田康之 2005-06-18 18:18:48
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