遠く響く朝
嘉野千尋

  
  君の歌が聴こえる朝には
  泣きたくなってしまうんだ
  少しだけ風の冷たい、
  土曜日の始まり
  齧りかけのトーストと
  マーマレードのかすかな苦味
  それから君がアルトで歌う、
  耳に馴染んだ一曲
  僕は頬杖をつきながら
  少し離れたテノールで歌う
  わざと歌詞を間違えて
  君が笑うのを待ちながら
    


  天気予報は朝から雨
  それでも窓の外は
  灰色の雲が流れていくだけ
  目を閉じる一瞬に、
  遠くで稲妻が優しくささやく
  帰っておいでと
  その向こうに探す、
  君の声
  部屋の片隅に
  かすかにかすかに、
  狂おしく
  君の歌声は今も響いて



  君の歌が聴こえる朝に
  泣き出しそうな空を見る
  耳元で繰り返された、
  懐かしい一曲が遠ざかり
  雨音が、
  やがてここにも届くだろう
  君の歌声の代わりに
  やがて響き始める朝を届けて
  少しだけ風の冷たい、
  土曜日の始まり
  君の歌声は、雨音の向こう



自由詩 遠く響く朝 Copyright 嘉野千尋 2005-06-18 16:27:43
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